ここ最近、当時作った自作ゲームの紹介が続いておりましたが、この連載の本来の趣旨は私が少年時代を過ごした大切な相棒であるX1との「思い出話」でありまして、少々そちらの方に立ち返って昔話をしてみたいと思います。その割には今回X1が全然出てきませんが。
第12回で少々触れたように、私の高校生活は完全にゲームとパソコンで占めていました。
家ではX1でひたすらプログラム……という生活は言うに及ばすなのですが、授業中もゲームプログラムのアイデアやアルゴリズムを考えていました。そんなパソコン漬け生活が、高1の冬に買ったポケコンのおかげでいよいよブーストかかることとなります。
ちなみにポケコンとはポケットコンピュータの略で、文字通りポケットに入るサイズの小さなコンピューターです。もっとも、通常のパソコンがオフィス機器の延長として発達したものであるのに対し、ポケコンは少々乱暴な言い方をすれば電卓が進化したもので、グラフィックやサウンドなど表現力が広がる方向に進化したパソコンとは少々カテゴリが異なる製品でした。
後期の一部の製品を除いて、表示できるのは8×6ドットの英数文字のみ。単3か単4乾電池で動作し、画面もモノクロ液晶のみで、正直見た目は地味です。そのかわり、ボタン電池でメモリバックアップされていたり、関数計算に強い専用ボタンを備えるなど、携帯機ならではの特徴も備えていました。
今回は私が高校時代に使っていた2機種を紹介したいと思います。
カシオ スーパーカレッジAX-3
AX-3は、「スーパーカレッジ」という名が示す通り学生向け教材として発売されたポケコンで、カシオのFX-790Pという機種の学販モデルです。クラムシェル構造で折りたたみができ、可搬性にも優れたなかなかかっこいいデザインのポケコンです。
カシオは電卓(というか計算機)で名を成したメーカーだけあって、古くからポケコンに力を入れておりました。中でもFX-702Pの流れを汲む派生モデルは多数発売され、AX-3もそのひとつでした。高校の購買で7000円~8000円くらいという手頃な値段で売っていたのがきっかけで、あまり深く考えずに買ったのですが、これが大ハマリ。コイツのせいで授業そっちのけでプログラム内職に没頭する羽目となります。
1人で黙々と作っているX1のゲームと違って、ポケコンの場合は休み時間などにクラスメートからダイレクトなリアクションが返ってくるのが楽しく、その辺もポケコンにのめり込んだ要因でした。
当時作ったゲームはタイムアタック型変則計算ゲーム『BRAIN EXCERCISE』、ゴルフゲーム『MINI GOLF』など。特に『MINI GOLF』はグラフィックもないテキストのみの一次元ゴルフ(カップまでの距離のみで“方位”という概念がない)ながらクラス内でも好評で、ブラッシュアップを繰り返したため複数のバージョンが存在します。
シャープ PC-E500
AX-3のおかげですっかりポケコンでのプログラムにハマった私は、より高度なゲームを作るために、当時発売されたばかりのPC-E500を購入します。
シャープはカシオと並んで電卓競争の頃からしのぎを削っていたライバル同士だったのですが、ポケコンにおいてもカシオに負けじと積極的なラインナップ展開をしておりました。中でも1988年に発売されたPC-E500は、ポケコンでありながら240×32ドットのグラフィック表示が可能で、1MBのメモリ空間をリニアアクセス可能な独自新規開発の8ビットCPU、SC62015を搭載。さらにはファイルシステムやIOCS(BIOS)まで備えており、ポケコン界のX68000と表現したくなるほどのインパクトでした。
同じメーカーの製品であるX68000でもそうだったのですが、このIOCSというヤツが大変便利でいじり甲斐のある代物でして、ポケコンのくせにこれのおかげでハードウェアスクロールやPCGのような機能も実現できたのです。実は工学社のポケコンジャーナルにプログラム投稿を1度だけしたことがありまして、短いプログラムながら縦スクロールのドライブゲームが実現できたのもそれらの機能によるものです。
ちなみにPC-E500には上記の『ドライブゲーム』の他、『モンタージュ』や『グラフィックエディタ』など、AX-3では逆立ちしてもできなかったビジュアル色の強いプログラムを多数作っておりました。残念ながら実機が残っていないためお見せすることはできませんが、プログラム自体はリストが残っているので機会があれば動作するものを公開したいですね。
……と思ったら、こんな素敵なエミュレータが存在しました!
プログラムリストを渡すので、誰か打ち込んでもらえませんか?