第11回:音楽やグラフィック制作で活躍したツールたち

前回、フロッピーディスクがどんなものかについては触れましたが、導入に伴って「どう変わったか」という部分について今回は説明したいと思います。

これはX1に限った話ではないのですが、俗にいうDISK BASICはディスク内のファイル操作(実行、コピーや削除など)ができるDOS(ディスク・オペレーティング・システム)の機能を併せ持っておりまして、多数あるプログラムやデータをファイルという形で管理できるようになったのが大きな違いです。

今のパソコンではごく基本的な操作だけに「そんなの当たり前じゃん」と言われそうですが、カセットテープではそういった概念すら理解できていなかったわけで、これによって単純に「プログラムを作る」だけではなく「ツールを使ってデータを作る」といった、分業が可能になったのです。

というわけで、X1Gを手に入れて購入直後の私がハマったのは、プログラムそのものよりも専門のソフトを使ってデータを作ることでした。ここではそのいくつかを紹介しましょう。

『VIP』でFM音源を使う

X1用のステレオタイプFM音源ボードには『VIP』という専用のツールが付属していました。このソフトはいわゆる「楽譜ワープロ」でして、プログラムの知識がなくても手軽(といってもそこそこ敷居が高い)にFM音源によるDTM(デスクトップ・ミュージック)が楽しめるというものです。音色を作る「NEWTONE」、楽譜を作る「EDITSONG」、演奏をする「PLAYTONE」、BASICで使用するためのリンカ「LINKERN」から構成されており、偉人の名前をもじったダジャレになっていました。

開発には神谷重徳氏率いるカミヤスタジオが関わっておりまして、『VIP』に収録されている200音色は、OPM用の音色データとしてはかなり評価の高いものらしいです。

当時使っていたディスクの中身を見ると、わかり易いほどに私が当時好きだったアーケードゲームの曲ばかり出てきます。大半は『オールアバウトナムコ』やベーマガ本誌に掲載されていた楽譜を入力したものですが、一部自分で耳コピした曲もあります。

メロディ、コード、ベース、リズムという4つに楽譜が別れているのはありがたいのですが、この配分は固定で変更できず、リズムパートに必ず3チャンネル取られてしまうのはゲーム音楽の打ち込みには大きなハンデでした。

ベーマガに掲載されたGORRY氏制作の『NEW FM音源ドライバー』を使うようになるまでは、大活躍していた、今でも愛着のあるツールです。

『DEFCHRTOOL』でPCGを使う

X1のシステムディスクに最初から入っている、いわゆるドット絵作成ツールで、X1のPCG機能を使いこなすためには実質的に必須といえるツールです。初期の頃は電波新聞社の『オールアバウトナムコ』に掲載されているドット絵をX1で再現して楽しんでいましたが、次第に「これを動かしてみたい」になり、後の数々の勝手移植に繋がることになります。今回紹介したソフトの中では一番活躍したツールですね。

『X1 Z’sSTAFF』でイラストを描く

Z’sSTAFFはツァイト社が開発したグラフィックツールで、PC-8801、PC-9801でも発売されており、当時は割とメジャーなツールの一つです。X1用はシャープブランドで発売されていました。

X1のグラフィック性能は640×200ドット、デジタル8色でして、『X1 Z’sSTAFF』もその解像度で絵を描くことができました。当時はスキャナも持っておらず(数十万円もする非常に高価な周辺機器だったのです)、RS-232CマウスボードとX1用マウスを購入して絵を描いておりました。今思うと、マウス直描きでよくもまあデッサン崩さずに描いていたもんだと、その労力に我ながら呆れてしまいますね。

なお、これはX1ならではの活用法なのですが、ビデオ画面を静止した状態のものをスーパーインポーズ機能で重ねて表示し、それをなぞってトレースするという手もありました。

X1活用後期には自作ゲームのグラフィック画面の制作にも活躍しました。

ゲーム開発における分業の大切さ

昔のゲーム開発は基本的に1人で行うのが普通でして、プログラムはもちろんグラフィックからサウンドまでも全部1人でした。私自身も、X1でプログラムを組んでいたこともまた然りです。

しかし、ゲームの内容がある程度高度になってくると、1人の才能だけですべての分野をこなすことは次第に難しくなってきました。グラフィックは絵心のある人間に任せたほうが、より良いものを作ることが可能になりますし、音楽も同様です。そうなると、それらの分野の専門職はプログラムのスキルを持っているとは限らないわけで、「コンピューターに詳しくなくても絵が描ける、音楽を作ることができるツール」の存在が必須不可欠になってくるのです。

フロッピーディスク(DOS)の登場によって、プログラム開発自体もメインプログラムと、ツール開発という分業が可能になり、グラフィックや音楽などに専門分野の才能がある人間を起用できるようになったのは大きな進化といえるでしょう。

ディスクベースになっても、私は相変わらず1人で開発をしていましたが、専用のツールを使用して音楽やグラフィックを作ることができるといった恩恵を受けられるようになったのです。

次回からはこれらのツールを使って実際に作った自作ゲームを紹介したいと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年愛媛県松山市生まれ。アーケード、家庭用、PCはもとより美少女ゲームまで何でも遊ぶ、ストライクゾーンの広い古参ゲーマー。ただし、下手の横好きがたたり、実力でクリアできたゲームの数は決して多くないのが弱点。