さて、本日もとんがったゲームを紹介していきますよ。
毎度のことではありますが、今回は特にネタバレ注意。
ネコっかわいがり! ~クレインイヌネコ病院診察中~
このゲームは、記憶喪失のイヌミミ青年が小さな診療所で暮らしつつ、ネコミミ娘たちやちっちゃいけど頼れるアリス先生に囲まれてキャッキャウフフな日常を過ごすお話です。
途中までは。
この物語におけるイヌミミとネコミミはユーザーに萌えをお届けするために生えているわけではありません。作中に登場する架空の病気の症状です。
病状が進行すると発情の症状が出て、えっちな治療が必要となります。
あー、えっちなゲームでよくあるやつね。などと呑気してはいられません。
この病はヒトの理性を完全に奪って獣のように変え、最終的には死に至らしめるのです。
本編では発情の症状については描かれますが、病気について深くは語られません。長く病院にいるヒロインのノーマがそう遠くない死を自覚していたり、先生ことアリス・クレインのモノローグに「(楽しい)この時間がいつかは必ず失われてしまう」とあったりと不穏な気配を時折見せつつも、萌えラブコメ的な雰囲気を崩すことはないままに終わります。
しかし、全ヒロイン攻略後に解放される「トゥルー」では、もはや容赦はなし。ヒロインからも続々と死人が出て、死の病のアウトブレイクがとっくに世界中で起きていることが明かされます。
イヌミミやネコミミが生える病は、人種的独自性及び才知覚消失症候群「DOTES」(Deaden of Originality and Talent for Earthling Syndromeの略)といい、地球上のイヌネコをすべて死滅させた上に人類にも感染し、今度は人類をも絶滅の危機に陥れています。罹患者の隔離が行われていたのも過去のことで、もはや健常な人間の方が少ない状況。病気の抗体は適合者の男女の脳から摘出できると発覚しており、主人公とヒロインの一人がその協力者であることが明かされるのです。
小さな田舎の診療所と思っていた場所は、人類最後の希望の地。
そして主人公自身が死の病の治療薬となる予定だったわけですね。
主人公の記憶はトゥルーの途中で元に戻り、それによって主人公がアリスと恋人同士であったことが明かされます。
つまり、抗体を取り出す手術を執刀する予定の先生が、恋人。
ちなみに当然ですが、通常ヒトは脳を取り出されると死にます。
おまけに、本編での主人公が恋人とひとつ屋根の下で暮らしながら恋人の姉を含む他の女の子たちとにゃんにゃんして発情を解消させていたことに気づくと、私の胃はとうとう痛みはじめました。
本編の和やかな空気が、真実を知る者のどれほどの努力と忍耐によって作られていたことか。
そもそも「トゥルー」という表記がまた罪深いですよね。
公式が作ったIFストーリーとでも思っておこう。などという現実逃避を許してはくれないじゃあないですか。真実だとはっきり書かれているわけですから。
ついでにネコミミ娘とにゃんにゃんした結果1人を妊娠させているので、アリス先生にとってはさらにハードモード。
愛する人を犠牲にして救われた世界で生きていくことになり、恋人は愛情の証を他の女との間にだけ遺した。
いや本当にハードモード。
いやもう、パッケージや絵柄からはまったく想像できない内容ですね。胃に悪いったら。
萌えエロゲー然とした賑やかな診療所が、実は人類最後の砦だったなんて誰が予想するでしょう。公式サイトに「迷える子猫ちゃんをワンワンスタイルで救ってあげちゃうAVG!」と書かれていましたが、自らワンワンとなって世界を救う英雄として散るとは、普通は考えもしません。
病気がかなりまずいものらしいことは本編でそれとなく示唆されていたので混乱もなく受け入れられましたが、パッケージを手に取った時点では何もわからないわけで。ごく普通の萌え系ゲームを期待して買った人は驚いたのではないでしょうか。
少なくとも私は驚きました。
13cmめ、よもやユーザーではなく開発側のSな性癖を満たそうとしたのではあるまいな。
そんな疑いを抱きそうになりました。
本作の数年後に姉妹ブランドから発売された『鬼うた。』では、物語後半からヒロインが自殺するわ精神病むわ、おまけにモブもモリモリ死んじゃうわでとんだことになっていましたからね。
シナリオ担当は別の方なので濡れ衣でしょうけど。
メーカー側の真意はともかく、このゲームを私に薦めた人は、どんなゲームかと尋ねてもはっきりとしたことは言わず、「予想外の内容」「パッケージに騙される」といった趣旨の発言だけをしておりましたので、少なくともあれはわざとでしょう。
別に私を苦しめようとしたのではなく、ストーリーを最大限に楽しめるようネタバレを避けただけだと思いますが。
ちなみに犯人は前田尋之っていうんですけど。
本作は発売後すぐにはそれほど売れず、鬱になるゲームとして噂になったことで知名度が上がったらしいですよ。
ですが実際にプレイしてみて、個人的には鬱ゲーともトラウマゲーとも思いませんでした。確かに少々テンションが下がって胃も痛くなりましたが、ひとつの物語としてしっかりとまとめられているので、結末には納得しています。
死んでしまうヒロインを目当てにプレイしていたらどう思っていたかはわかりませんが、幸いというべきか、そうではありませんでしたしね。
さて、『ネコっかわいがり!』に興味は持っていただけましたでしょうか。
ゲームの中古価格は一時高騰していたようですが、現在はパソコンとAndroid向けにダウンロード版が販売されていて入手は容易となっておりますので、もし興味を抱いたなら遊んでみてください。
また、シナリオライターを務めたうつろあくたによってトゥルーの後日談が描かれた小説がありまして、元々同人誌として出したものに加筆修正を加えたものが『小説家になろう』や『ピクシブ』にて公開されております。よろしければこちらも併せてご覧になると、『ネコっかわいがり!』の世界がより楽しめると思いますよ。