30年過ぎてX68000に思うこと

昨日『X68000パーフェクトカタログ』が発売され、そろそろお手元に本が届いたネット上の書き込みもチラホラ見えてきました。基本的にパーフェクトカタログで必要な紹介は書いてきたのですが、ここではX68000というハードに対する私の個人的考えを書いてみたいと思います。

「パーフェクトカタログ」シリーズでこの手の話題を扱わないのは、同じハードでも当時のユーザーによってさまざまな受け止め方があるためで、本を読んでくださる当時のユーザーに私の個人的感情を一方的に語るのは適切ではないと考えるからです。そういう意味では、わざわざ異例ながらこんな文章を書くのも、X68000というハードが自分を構成する上で特別な存在だったからなんだなと、今更ながら深く痛感させられます。

私がX68000(EXPERTⅡ)を初めて入手したのは1990年の5月、今からちょうど30年前になります。「夢を超えた」マシンが納品されてきたときの嬉しさはそれこそ言い表せないほどで、まだろくにソフトを買っていなかったにもかかわらず、とにかく付属のHuman68Kのシステムディスクを起動してはビジュアルシェルを意味もなく操作してみたり、クソ重たいSX-WINDOWのサンプルプログラムをいじくり倒すだけでも恍惚な気分に浸れたものです。

購入初期の頃こそX1で作ったゲームをリメイクしてみたり、X68000版『コラムス』を作ったり(未完成)していたのですが、ほぼ同時期にテクノポリスで編集の仕事をすることになったためプログラムに割く時間が激減。残念ながらウチのX68000は市販ソフトを使うことが中心となってしまいました(それでも、テクポリ編集部でアンケートの集計用プログラムなどちょこちょこ作ったりはしていましたが)。

当時は夢にまでみたパソコンだけに、病的なまでのアバタもエクボ状態なX68000信者だったのですが、30年も経つとだいぶ冷静に俯瞰からの見方ができるようになりまして、X68000というハードの特性(問題点)もよく見えてきます。

X68000の設計思想はパソコンというよりは家庭用ゲーム機寄りな発想で作られており、「発売後5年間は仕様を変えない」というメーカーの発言からもそれがよく現れています。もともと「5年間は~」という言葉はパソコンの進歩のサイクルが早い1980年代前半においてユーザーに安心してそのハードを使ってもらえるようにX1時代に提唱したものですが、実際に5年以上に渡って初代期まで遡って互換性が維持されていたのは称賛されるべき点だったと思います。ただ、X68000に限っていえば「発売後5年間は仕様を変えない」というのは「5年先の技術水準を見据えたハード」という意味と同義でして、この考え方は途中でプラットフォームの仕様を変えることができない家庭用ゲーム機の設計思想そのものなんですね。

そうであるなら、約束の5年が過ぎたあたりでファミコンの次にスーパーファミコン、さらにNINTENDO64といった具合に次のハードへの世代交代があって然るべきなのですが、その間に行ったことはCPUの高速化と3.5インチドライブモデルの追加、32ビットCPUの搭載のみ。「その先」への次世代に繋ぐロードマップが描けなかった点がX68000最大の敗因だったといえます。そういう意味では他の家庭用ゲーム機同様、単一プラットホームとして時代の波に飲み込まれてしまったのも必然だったといえます。

X1の頃はX1シリーズに対するturboシリーズ、turboZシリーズという上位シリーズへの展開を図っていたにもかかわらず、X68000ではそれも一切ありませんでした。もちろん当時の市場規模ではそこまでの体力がなかったという事情もあったのかもしれませんが、長く使えるパソコンを考えるならば何らかの方策をメーカーが提示すべきだったなと感じます。

もっとも、リアルタイムでX68000文化に触れることは大きな喜びでしたし、ユーザーメイドのパワーでハードのポテンシャルを絞り尽くす程に楽しませてもらったのも事実です。後の家庭用ゲーム機ソフト開発においても大いに役立ってくれましたし、そもそもX68000がなければ今の私は存在していなかったと胸を張って断言できます。

X68000という文化の灯が消え、日本独自のパソコンアーキテクチャの道が閉ざされた今、何を言っても後出しジャンケンでしかないのですが30年という節目と『X68000パーフェクトカタログ』発売というタイミングでただふと個人的な胸の内を語りたくなった、それだけだったりします。

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年愛媛県松山市生まれ。アーケード、家庭用、PCはもとより美少女ゲームまで何でも遊ぶ、ストライクゾーンの広い古参ゲーマー。ただし、下手の横好きがたたり、実力でクリアできたゲームの数は決して多くないのが弱点。