第25回:X1でFM音源を使いたい!その①

第9回で触れましたが、私がX1Gを購入した大きな理由のひとつにシャープ純正周辺機器「ステレオタイプFM音源ボード」の存在が挙げられます。この製品自体は一応、X1全機種に対応はしていたのですが付属のミュージックツール『VIP』がフロッピーディスクのみだったことと、FM音源対応のゲームソフトはいずれもディスク版のみだったため、そういった面からもフロッピーディスクドライブを搭載したX1Gの導入は実質的に必須といえるものでした。

事実、X1Gを購入後は『夢幻戦士ヴァリス』『ハイドライド3』『ユーフォリー』など、ステレオ8チャンネルを使いこなした数々の名作ゲームのおかげで他機種を遥かに上回る音の厚みに優越感を感じていたものです。しかし、その一方で大きなコンプレックスを抱いていた要因もFM音源でした。

今回はそんなX1におけるFM音源の話、第1回です。

そもそもFM音源とは何か?

1980年代のゲームやホビーパソコンを語る上でちょくちょく登場するFM音源という言葉。極めて大雑把に説明すると「自然の楽器ぽい音を擬似的に作り出すことができる音源」でして、周波数変調(フリケンシー・モジュレーション)によって音を作り出していることが名前の由来。ちなみにラジオのFMも同じ語源から来ています。

リアルな楽器の音を出すならば、楽器そのものの音を録音して再生したほうが確実なわけでして、現在主流のPCM音源はそういった考えから生まれています。ただしこの方法はリアルであればあるほど容量がべらぼうにかかるという欠点も持ち合わせておりまして、メインメモリが8Kバイト~64Kバイト程度しかなかった当時のホビーパソコンやゲーム機では到底扱えるものではありません。

そこで、ヤマハが異なる周波数の発振器(オペレーター)を複数組み合わせることで楽器音ぽい音をだす技術の実用化に成功、わずか数Kバイト~数十Kバイトという少ない容量でそこそこリアルな音を奏でることができるようになったのです。ただし、その一方で、思いのままの音色を作るにはかなり高度な知識が必要でして、かくいう私も完全に音色作成を使いこなすまでには至りませんでした。

本稿での説明はある程度かいつまんだ説明なので、興味を持った方は各自資料や解説を探して読んでいただければと思います。

PC-88SRでブレイクしたDTM(デスクトップミュージック)の世界

私はバリバリのアーケードゲーマーだったので、FM音源に触れたのもやはりゲームセンターが最初でした。
FM音源が登場する前はPSG(俗にいうピコピコ音)が主流でして、生楽器の音とは似ても似つかない音質だっただけに、『沙羅曼蛇』『源平討魔伝』『サンダーセプター』など、FM音源が搭載された曲を聞いてたいへん驚いた記憶があります。ラジカセを持ち込んでプレイしながらゲーム音楽を録音したり、ゲーム音楽のサントラを買うようになったのもこの頃からでした。

ほぼ時を同じくして、パソコンにもFM音源の波が押しようせるようになり、中でも歴史的名機といわれるPC-8801MkⅡSR(NEC)が1985年に発売。これによってパソコンゲームでもFM音源が奏でられるようになりました。この機種を名機たらしめている一因に「BASICから直接FM音源を制御できる」という点がありまして、これによってプログラムリストを間違えずに打ち込むだけで音楽が再生されるという新たな楽しみ方を共有することが可能になったのです。

マイコンBASICマガジン(電波新聞社)ではいち早く、このPC-8801MkⅡSRの特性に着目。ゲームミュージックの楽譜掲載、投稿プログラムの掲載など、ゲームミュージックに力を入れた企画や連載を立ち上げます。これらの企画は「あのアーケードゲームのBGMが家のパソコンから再生される」という需要に見事に合致し、たちまち人気企画となりました。プログラム投稿誌であり、アーケードゲーム情報誌でもあるベーマガだからこそできる、まさに面目躍如といえるでしょう。

一方で、標準の音色を使っただけの「とりあえずFM音源が鳴っています」程度の楽曲が多かったパソコンゲーム自体の音楽スキルまでボトムアップされるようになり、サウンドトラックの発売、ゲームミュージックバンドの結成、ライブ演奏など、それまで添え物程度だったゲーム音楽自体が独立した大きなムーブメントへと成長していったのです。

ベーマガで蚊帳の外だったX1

一方X1はというと、前出の「ステレオタイプFM音源ボード」という周辺機器があり、これに搭載されているFM音源はYM2151という、アーケードゲームに多数搭載実績のある強力なものでありながら、ほとんど話題になることはありませんでした。

理由は単純明快で、PC-8801MkⅡSRが音楽分野でブレイクした最大の理由である「BASICからFM音源を制御」する方法がX1には存在しなかった点に尽きます。X1には付属のミュージックツール『VIP』があったものの、これは楽譜ワープロとでもいうべきもので、雑誌媒体を通じて投稿することはできませんでした。

一応擁護すると、この楽譜ワープロという考え方自体は決して的外れはなく、プログラムの知識がなくても楽譜のとおりに打ち込めば手軽に音楽を奏でることができる合理的な手法でして、事実、入門向け要素の強いホビーパソコンではよく採用されていたりします。ただし、それはあくまで入門向けの配慮であり、中級者以上の人間が使うには機能面に不満があることも事実でして、『VIP』を卒業したユーザーに対する配慮がなされていなかった点が当時のX1の大きな弱点だったのです。

このように、X1はこういったソフトウェア面でのFM音源の対応において大きく遅れており、メーカー公式のFM音源MMLである『New Z-BASIC』が発売されたのもずっと後になってからとなります(しかもX1turbo専用)。

さらに後発のX68000では、同じFM音源チップでありながら強力なMML(BASICで制御できる音楽記述言語)を搭載。それを背景にベーマガへのレベルの高い投稿が多数行われていたことも、X1ユーザーのFM音源におけるコンプレックスへと繋がっていました。

せっかくアーケードゲームでメジャーなYM2151を搭載しているにも関わらず、ベーマガの掲載プログラムの輪には入れない。これらのムーブメントを羨ましく感じつつも横目で眺めるだけだったのです。

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ABOUTこの記事をかいた人

1972年愛媛県松山市生まれ。アーケード、家庭用、PCはもとより美少女ゲームまで何でも遊ぶ、ストライクゾーンの広い古参ゲーマー。ただし、下手の横好きがたたり、実力でクリアできたゲームの数は決して多くないのが弱点。