本コラム、とんがりギャルゲー紀行が書籍化するとのことで、これを祝しまして応援原稿を書かせていただきました。私も何本か紹介記事を書きますので、発売したら是非チェックしてみてください。それではさっそくとんがったギャルゲーを紹介していきますね。
凱旋!無花果艦長!(がいせん!いちじくカンチョー!)
2000年発売の本作。メーカーは今はなきBeFというブランド。このタイトルを検索すると、公式ユーザーサポートのページだけが寂しく出てきます。時が未来に進むと誰が決めたんだ? しかし20年前のゲームともなれば、こんなことも多々あるわけです。
どうでしょうか、今のギャルゲー・エロゲーと比べて。なんていうか、個性的でしょう?
当時はこういう“他と違うオーラ”を放つソフトもバンバン世に出ておりました。かなり野心的内容のタイトルですが、少なくとも3000から5000本くらいは売れていた時期じゃないかと思います。小規模なソフトハウスなら、3000本出れば自転車気味ですけど次には繋がりますからね。
さて気になる内容ですが、もし日本の海軍が現代まで存続していたら……というIFの世界で、50年前に作られたポンコツ潜水艦を舞台に繰り広げられる、潜水艦ドタバタパニック・アドベンチャー。
エロゲー界隈では唯一無二ですが、映画とかではわりとよくあるジャンルですな。
作中ではディーゼル潜水艦VS最新鋭原子力潜水艦の戦いが繰り広げられるわけですが、今プレイする方(いるのか?)は当時日本で大ブームになった某潜水艦マンガを思い出し、全艦隊沈黙ものの懐かしさに駆られる仕組みです。
こうした潜水艦ジャンルにエロを足し、さらに植木等あたりのスチャラカ映画のノリもちょっとある感じで、この情報だけで判断するともう色モノ作品以外の何者でもない気配が漂います。
ご安心ください。(たいへん失礼ながら)シナリオはまともです。
陰謀で危険極まりない任務に送られた無花果艦長が、部下たちとよろしくやりながら、決めるところでは決めてくれます。有能主人公とは良いものだ。
潜水艦もののセオリーを守りつつも、ギャルゲー的ドタバタもあり、とんがってはいるけども越えちゃいけない一線は越えてないというユーザーフレンドリーな作りです。
正直めんどいと多くのユーザーに言われてしまうであろう移動システム
何がめんどうかと言うと、マウスでポイントした場所に向かって艦長が歩いて行く。つまり移動に時間がかかる。これは批判もやむなしか。でも個人的には嫌いではないですよ、こういう実験的試み。
こういうのエロゲーメーカーで作るの一手間なんです。ドッター雇わないといけないから。そしてテキストベースのゲームとドットの共存ってのも存外難しいもんでして。そういう苦労を知るだけに、どうしてもこの手の努力を評価してしまう偏向レビュアーな私です。
やってることはヒロイン選択以外の何物でもなくて、この画面で戦闘アクションとかはもちろんありません(あっても困る)。
余談ですが、エロゲーってけっこう移動を重視してるんですよ。
マップ上にヒロイン表示してプレイヤーに選んでもらうようなシステムを『どこでも移動できちゃうシステム(DIDS)』と名付けたり、『誰がどこにいるかわかっちゃうシステム(DDIWS)』とか言ったりね。やってることはマップ上にヒロイン表示させて、選ぶだけなんですけど。
流山百合花 鳴門紅葉
好きな方には申し訳ないけど朗報として、とんがってはいるけど性的嗜好の壁は突き抜けてはいないので、スカトロはありません。タイトルで損してる感あり。あるいはあえてのチャレンジ精神なのか。
素直に褒められる点として、キャラクターがみんなイキイキとしています。流山百合花という緑系眼鏡族(髪が緑色で眼鏡をしたヒロイン群のこと)の整備士と、耳が良いだけでスカウトされてきた元民間人の鳴門紅葉が個人的にいい感じでした。
とんがり要素で思い出しましたが、昔、前任者ライター(兼企画者)が退職して未完成のまま残されたシナリオを当時新人だった私が引き継いだ際、シナリオ各所に大量にまき散らされていた「ピンヒールで睾丸を踏まれて主人公が絶叫するシーン」を少しでも減らしつつ完成まで持っていって欲しいというハイグレードな残務処理を承ったことがありました。
時に誰が得をするのかわからない性的欲求が描かれる。それが2000年代以前のエロゲーにしばしば見られる特徴でしたね。ちなみに前述の仕事は見事に完遂して、同僚の皆に褒め讃えられました。まあピンヒールで睾丸踏まれたい人は、少ないよね……。
その点、本作はとんがりつつもかなり人に優しい方向に寄って作られていると言えます。
ゲーム的工夫はもうひとつあって、深海の潜水艦バトルを演出するため、特定シーンでマウスを触っちゃいけない場面があるんです。
ほら、潜水艦って敵に見つからないよう、よくエンジン切るじゃないですか。むしろエンジンを切らない潜水艦を私は知りません。潜水艦たるものエンジンを切るべき。
あれが操作面でも再現されています。
マップ移動はめんどいの一言でしょうが、こっちはなかなか良い使われ方をしていると思います。思いませんか? 思ってくれ。このくらいのチャレンジは認めて欲しい。
ムービー関係が充実していたり、男主人公に声入っていたりと、なかなか野心的な内容のこの一本。
これね、下手したら今数百円で買えてしまうんでね。損はしませんや。
もしよろしければ、当時を懐かしみつつ触れてみるのも一興かと。
編集注:田中ロミオ先生の執筆特別編 第1回はこちら!(別ウィンドウで開きます)