とんがりギャルゲー紀行 第128回:さくらの季節

 さて、本日もとんがったゲームを紹介していきますよ。
 今回は権利的に危うそうなエロゲーとして一部で有名なこの1作。

さくらの季節

 『天使たちの午後』シリーズを作ったJASTの系列ブランド「ティアラ」がPC98向けにリリースしたアドベンチャーゲームです。権利的に危うそうというのがどういうことかは、タイトル画面を見ればもうおわかりですね。
 登場人物が新世紀エヴァンゲリオンやら魔法騎士レイアース、怪盗セイント・テールのキャラクターとそっくりなのです。雰囲気が近いってレベルじゃありません。露骨です。葛城ミサトのそっくりさんなんてプロフィールの身長と血液型まで同じです。他の娘は伸びたり縮んだりしているけれど。

 これ、別に『NAMCO x CAPCOM』みたいに複数作品からキャラがゲスト出演しているのではありませんよ。既視感はあるけどまったくオリジナルのヒロインなのです。建前上は。

 権利的なハードルを負けない気持ちでクリアしてきたらダメなんじゃないの、とか、商業作品なのに種も仕掛けも他所から持ってきちゃったら主が許しても法が許さないんじゃないの、などと心配になりましたが、パッケージ画像を表紙に使ったノベライズ版ものちに発売されたくらいなのでセーフ判定なのでしょう。

 実際、エロゲーの原画担当にキャラクターデザインの希望をどう説明したらイメージが伝わりやすいかというと、モデルがいるのが一番なわけで。
 「〇〇に出ている××って娘のイメージで~」と発注をかけるケースもリアルによくあるものですから、似ているくらいはよくあることというか。原画担当がその手の二次創作をやっていて趣味が入っているケースもあったりとか。そもそもある程度パロディネタはエロゲーにはつきものというか。見た目に限らず声優ネタもよくありますし。
 私自身、パロディ要素を目当てにゲームを買うこともあるので責めはしません。ただこれはなんというか、すごい。やり過ぎ。

 のちに別のメーカーからエヴァのそっくりさんゲームが登場したのですが、そちらはキャラクターデザインに加えて設定やらストーリー序盤の流れまでそっくりという更にやり過ぎな内容で、発売日前日に回収の憂き目にあったという話がありまして。後にキャラの髪色を変更したものが改めて発売されています。ダウンロード版も販売中なので、今は許されているようですね。

 そうすると『さくらの季節』はよく問題にならなかったなあ、というのは本作を知る人の多くに言われることなんですよ。
 許された理由は不明ですが、『僕らの~』との明確な違いは髪や瞳の色を完全にそのままにはしていなかったこと、似せているのは見た目と性格のみでストーリーはオリジナルであることなので、その点が大きかったのでしょうか。単に権利者の目をかいくぐったのか、捕捉されても運よくスルーされたのか。両者は発売年が10年は違うので、時代の緩さゆえに許された可能性もあります。
 なんにしても、よくこんなトンデモ危険牌を切る気になりましたね、とは私も思いました。
 ティアラはその後、「ウェディングピーチ」や「ああっ女神さまっ!」などのキャラに似たヒロインが出る『まじょっ子ぱらだいす』も発売しているので、1回限りのことでもないのがまた恐ろしい。二度もやらかすなんて、お色直しのつもりでしょうか。

 先ほどちらりと触れましたが、『さくらの季節』のストーリーは他作品をなぞるものではないと思われます。

 物語のはじまりは主人公の高等部入学の日。
 主人公はいわゆる「できるヤツ」で、何をやってもあっという間に上達しては周囲に距離を置かれてきたことから、新生活では能力をセーブしようとしたものの、魔法騎士そっくりな3人組にあっさり目をつけられて部活の勧誘合戦に巻き込まれる、というお話。

 ちなみに「魔法騎士レイアース」の3人は物語当初からかなり好意的に絡んできます。休日に4人で東京タワーでも行こうと誘ったらあっさりOKしてくれそう。でも行きと帰りで人相変わってそう。
 主人公はやる気のないようでいて約束を守ることだけは信条としていたり、誰かのために一生懸命になれるところもあったりといい男なので、序盤からそんな感じでモテ倒しているわけです。

 その中でも恐らくメインヒロイン的なポジションにいるのは、綾波レイに似た娘「白木瑠璃」でしょうか。
 彼女は無口無表情の転校生で、周囲と距離を置きたがっているのは旧華族の母が強烈なモンスターペアレントであるために孤立した経緯があるとかなんとか。転校してきたのは、母に干渉されない学生生活を送れるようにという親戚の配慮を受けてのことですが、本人はいずれ母の元へ帰るつもりでいます。親から迷惑を被っても従順であり続けるのはとっても綾波的ですね。

 そんな感じでゲーム独自の設定はきちんと作ってありまして、グラフィックをスルーすればごく普通のゲームとなっています。
 というか普通過ぎて印象に残らないというのが正直なところ。
 綾波似のヒロインと結ばれたときに「名前で呼んで…」と言われても頭に浮かんだのは「レイ」の2文字でした。違うよ瑠璃だよ。コトの最中に相手の名前を間違える痛恨のやらかしを体験することになるとは、まったくすごいゲームだぜ。

 筆者が抜けてるだけかもしれませんが、このようにヒロインの名前すらいまいち頭に残らないわけです。正直、プレイ中にプロフィールのスクリーンショットを何度か確認しました。見ないと誰がどの娘か時々わからなくなるんじゃい。

 グラフィックをがっつりパロディに頼っているゲームって、シナリオまで面白いことは滅多にないのが残念ですね。決して悪くはないのだけれど、“まあまあ”止まりというか。
 といっても、多くの人に危うさを感じさせたくらいにはビジュアルの再現度は高いので、いずれかのネタ元が好きな方であれば楽しめるかもしれません。興味があればぜひどうぞ。

 さて、それでは今回はこの辺で。また次回もよろしくお願いいたします。

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