『テトリス』のヒット以降、アーケードゲームでは落ち物パズルブームが起きていました。1980年代末はアーケードゲームの表現力が一気に底上げされ、1タイトルあたりの開発費が高騰する割に商品寿命が短くなる一方で、そんな中に登場した『テトリス』の衝撃は大きかったのです。
昼間の回転率が落ちる時間帯にも、時間潰しで『テトリス』を遊んでいる営業サラリーマンをよく見かけましたし、当時発売されたばかりのゲームボーイでも大ヒットしたことが、さらに人気を押し上げる結果となりました。
『テトリス』はまさにグラフィックがゲームの面白さの決定的要因ではないことを証明したわけで、スクロール機能のない低スペックな基板でもヒット作が生み出せるとなれば、各メーカーが二匹目のドジョウを狙うのは無理からぬことといえます。
セガもその流れのご多分に漏れず、『コラムス』はそんな市況の中で1990年に発売されたアーケードゲームです。美しい宝石と神秘性を感じさせるグラフィック、そして何より特徴的だったのは「連鎖」という概念で、数ある落ちものパズルゲームの中でも一線を画していました。
『テトリス』『フラッシュポイント』と続いて、次なる移植のターゲットにこの『コラムス』を選ぶこととなります。
美しくなければ『コラムス』じゃない
本作を移植するにあたり、自分自身に課したテーマは「グラフィックの再現」「連鎖反応の再現」でした。
連鎖についてはゲーム性の肝となるのでどっちみち避けては通れないのですが、私はできる限りグラフィックについてもこだわりたいと思っていました。神秘性のある宝石の美しさは、本作の魅力の大きな要素であると考えたからです。
参考資料となるのは例によって、アーケード版の目コピとゲーメストの紹介記事写真でした。できれば実機を動画や写真で撮りまくりたいところですが、当時はビデオカメラもなく、カメラもフィルムと現像代が高額だったので、大半を記憶に頼らざるを得ません。時にはフォントのドットパターンなどをゲーセンの実機を前に方眼紙に書き写すといったことまでやって、ようやく出来上がったのが以下の画面写真のものとなります。
わざわざスコアランキング画面まで作ったのもオリジナルの美しさを少しでも再現したかったからでして、私が今まで作った勝手移植のゲームでは初の試みとなります(そもそも、私自分1人で遊ぶものにスコアランキングなんて無用ですから(笑))。
当時の自分の技量に挑戦した、640×200ドットのデジタル8色によるドットデザインを、ぜひ確認していただければ幸いです。
連鎖判定で苦心する
もうひとつのテーマである連鎖ですが、これには相当苦労しています。私が作るプログラムは基本的にBASICなのですが、連鎖をさせるために必要な判定計算の量が想像以上に膨大となりました。
原則として「落下した3つの宝石の各8方向に同じ色の宝石がいくつ並んでいるかをカウントする」が基本アルゴリズムとなるのですが、最初に落ちてくる1段階目の判定であればこれで問題ありません。しかし、連鎖となると思わぬところで反応があるやも知れないため、2連鎖目以降は画面内の全部の宝石に対してチェックをする必要があるのです。そのため、連鎖が起きるたびに画面全部の宝石に対して判定計算をしているため、どうしてもワンテンポ遅れる現象が発生してしまいました。
「すでに判定チェックを行なった方向への計算は省略する」「宝石のない空白部分は処理しないで飛ばす」など、できるだけ処理の最適化は行ないましたが、それでも当時の技量ではうまい判定処理のアルゴリズムが思いつかず、満足のいく仕上がりとはなりませんでした。白状すると、スピードを優先するために一部の計算を飛ばしたことが理由で、特定の条件化で判定漏れが起こります。そんなこともあり、機会があれば、判定アルゴリズムについて再チャレンジしたいと今でも思っています。
これまた幻のX68000版があった
このX1版勝手移植『コラムス』が出来上がったのは1990年の春頃ですが、このころはまだアーケード版が稼動して間もなく、他機種の移植版は一切存在していませんでした。外に対して一切公開していなかったとはいえ、スピード移植をした点についてはちょっとした自慢だったりします。
また、X1版を作った1990年は私がX68000を購入した年でもあり、実はX68000版の移植も進めていました。残念ながらこの頃になるとゲーム制作に割く時間がなくなってきており完成には至りませんでしたが、さすがにX68000で作るからには!とグラフィック面については随分リキを入れたものになっています。X68000には正規の移植が後に日本テレネットから発売されていますので、これを完成させることはないと思いますが、また機会があれば詳しく紹介したいと思います。