もう3年も前の話になりますが、ツイッターとYouTubeで自作のX1版『テトリス』の画像と動画を公開したことがありました。最初に作ったのが1989年なので今から28年前の作品になりますが、誰に見せるために作ったわけでもないものを今更公開することになるとは想像だにしませんでした。
おかげさまで当時のツイートがそこそこ話題になったおかげで今もこんな記事を書いているわけですが、ツイッターでは書ききれなかった経緯を、もう少し掘り下げて語りたいと思います。
BPS版が不満でセガ版移植を決意
私が『テトリス』を初めて知ったのはパソコンサンデーでのソフト紹介コーナーだったのですが、固定画面で四角いブロックが並んでいるだけの画面を見ても「なんだこれ」が第一印象でした。エポックメイキングなゲームには往々にして起こり得ることなのですが、自分の想像の外にあるものというのは、面白さも理解できないんですよね。
その後にセガからアーケード版がリリースされ、「ああ、あのゲームがアーケードにもなったんだ」くらいの気軽な気持ちで100円を投入したところ、これが大ハマリ。単純なルールながら中毒性の高いこのゲームに、ずいぶんつぎ込んだものです(腕前自体はヘッポコでしたが)。
こういった流れでX1版を購入するに至るのですが、ご存知の通りBPS版『テトリス』はセガのアーケード版とは大きく異なり、アーケードで使えた固定時間を利用した「ずらし」「回転入れ」といったテクニックが一切使えません。この仕様に大きく失望した私は、「憧れのアーケード版を再現したい」という思いでX1版を作り始めたのです。特に『テトリス』は固定画面でスクロールなどの必要がなく、複雑なキャラクターも登場しないことから再現しやすいことも理由の一つでした。
あ、そうそう。1989年春に発売予定でありながら諸々の事情でお蔵入りになってしまったメガドライブ版『テトリス』の無念も忘れてはなりませんね(笑)。
どうせなら見た目もこだわりたい
開発に着手したのは高校3年、1989年の夏頃と記憶していますが、基本的なシステム部分はルールが単純な分、1日で出来上がりました。レベルによるスピード変化や着地固定時間など、調整を含めても最初のバージョンの完成までせいぜい2~3日といったところです。
ところが、アーケード版信奉者だった私の中にムクムクと悪い虫が湧いてきて「どうせならやれるところまでアーケード版に近づけてやろう」というチャレンジモードへのスイッチが入ってしまい、特にビジュアル面の強化に乗り出しました。
それまで、速度優先で40行モード(320×200ドット)で作っていたものを、ビジュアル優先の80行モード(640×200ドット)に変更。ブロックのドット絵も、よりアーケード版ライクに描き直します。ブロックの消去演出も、それらしく変更しました。アーケード版で一番印象的な背景グラフィックですが、さすがにレベルごとに変更しようとするとディスクアクセスが発生してしまい、ゲームのテンポを著しく削いでしまうため、ゲームスタート時にランダム表示・ゲーム中の背景チェンジは無しで妥協しています。
基本的には目コピで作っていますが、背景グラフィックのみはポニーキャニオンから発売された攻略ビデオからビデオデジタイズして使いました。PCGのパターンにだいぶ余裕があるのでゲームオーバー時の猿アクションも再現したかったのですが、どういうわけかこちらは着手せずに開発終了してしまっています。
記事を書きながら思い出しましたが、スコア周りのレイアウトはアーケード版ではなく、未発売に終わったメガドライブ版風にしています。このあたりからも発売されなかったメガドライブ版に対する怨念を感じますね。
幻のX68000版
こうやって一旦完成させたセガ版『テトリス』のX1移植ですが、半年ほど経ってアルゴリズムを全般的に見直し、ゲームスピードの向上およびブロック表示のちらつきを低減したバージョンⅡを制作。今回の記事にはこちらを使用しました。
余談ですが、後にX68000を入手してから同様に移植をチャレンジしようと検討したことがあります。しかし、すでに同様の思いを抱いていた方は多数いらっしゃったようで、X68000には複数の出来の良い勝手移植が存在するため、実際に着手することなく立ち消えとなりました。もともと「遊びたいから自分で作らざるをえなかった」のが直接の動機だったわけで、すでに満足できる出来のものが存在するならば立ち消えもやむなしであるのですが。
何にせよ、久しぶりに自分が作った作品を起動して感じたのは、「遊びたいから」という勢いだけで作ってしまう、若かりし自分が持っていた情熱でして、この熱意を見習うとともに今後の創作活動に活かしていきたいなと改めて感じた次第です。