#03 大人の世界は汚い その1 雑誌の提灯記事と広告の煽り

【おことわり】記事内で特定のソフトなどをディスっておりますが、30年以上前のことですのでご容赦ください。

ゲームソフトを買うぞ

時は1985年。
さて、肝心のマイコン(FM-NEW7)は晴れて入手できましたよ俺。次はソフトを買わねば。
しかし、本体とデータレコーダーで予算を使い切ってしまったため、ソフトが買えないのです。
仕方がないので日々ベーマガの読者投稿プログラムを入力しつつ、労力の割には微妙な楽しさのゲームを楽しむ毎日を送っていました。

田舎の中学生にとって、マイコン関係の情報元は、ほぼすべて雑誌。特にゲームに至ってはマイコンBASICマガジンの影響力が絶大でした。
なんせ中学生なので、基本的に純真で素直。雑誌に書かれていることは正義、というか絶対的な価値観だと信じてしまいます。

今にして思えば、貴重な広告主の新作ゲームがいくらお勧めできないような内容でも、記事でこき下ろすことが出来ないという力関係も明確に理解できます。
しかし当時は素直な中学生。雑誌記事に隠されたライターの本音や、行間を読むことは困難です。

毎月の小遣いをせこせこと貯めて、初の市販ソフト購入はどれがいいかなー、とワクワクしながらベーマガを読む毎日。そんな当時の筆者が目にした新作ソフトレビューとカラー広告。
新発売『アメリカントラック』(日本テレネット)

マイコンBASICマガジン掲載広告 (資料協力 佐々木潤氏)

どうも、広告と紹介記事を読む限りでは
・ゲームセンターの興奮が 今、君の部屋を襲う!!
・美麗なオープニングとエンディング。音楽とクレジット表示など映画的な演出
・ゲーム内容は高速スクロールの豪快なレースゲーム

…すごい。ついにゲームは映画的なところまで来たのか(想像)
これは、買わねばなるまい! FM-7テープ版の『アメリカントラック』を!!

物凄い期待を周囲に撒き散らす中で、やっとソフトが届きます。
息子の健やかな笑顔。マイコン関連は高い投資だが、情操教育の一環として温かく見守ろう、と両親の朗らかな笑み。

さっそうと10分近いロード時間を経て、初プレイ。

事前の笑顔とは裏腹に、どんどん曇りゆく表情。
やや不安げにのぞき込む母親が聞きます。
「…これ、面白いの?」
「……う、うん…」

言えない。数か月貯めた小遣いで買ったゲームが、ものの数分でブン投げたくなる内容だなんて、言えない。
家族の笑顔は俺が守らねば!

雑誌記事は、行間を読まなければならない

さて、ここで答え合わせをしておこうか。
ベーマガの広告や、新着ソフトの紹介では、確かにこう書かれていたよね。

・ゲームセンターの興奮が 今、君の部屋を襲う!!
   ↓
  襲わない

・美麗なオープニングとエンディング。音楽とクレジット表示など映画的な演出
   ↓
 テープ版には一切ない。タイトル画面すらローディング中のSYMBOL文字だけ。

・ゲーム内容は高速スクロールの豪快なレースゲーム
   ↓
 低速で荒く、逆にスクロールしているようにさえ見える。ひどい。

うん、完全に誇大広告と提灯記事だコレ。

ここで誤解なきように補足しておくと、レビューの元となったPC-8801mkIISR、FD版は、まあ仕様は記事通りと言えました。そんでもってFM-7版だけど、FM-77以降の機種で走らせると、スクロール速度もかなり速くなって遊べる仕様になってます。
実はFM-7とFM-77を比較すると、サイクルスチールの有無により、画面描画に圧倒的な(場合によっては倍以上の)速度差があります。結構多くの人がFM-77はFM-7に漢字ロムと3.5インチFDDを積んだだけ、と誤解しているんだけど、ゲームなんかの速度はかなり違います。もちろん後日発売されるFM77AVでも同様にFM-7より高速。

つまり、FM-7及びNEW7を使用しているユーザーにとっては、テープ版のこのソフトは、まさに鬼門。もっさりとのたうち回るように動くトラックは、FM-7特有のテンキーの5を押さないと止まらない仕様と相まって、操作性は劣悪。さらに敵車にぶつかると約1秒操作不能で、地形に挟まりミスとなるゲームデザイン。
※繰り返しますがFM-77以降で動作させると早い動作で割と遊べます。

うん、ダメだコレ。
日本テレネットと言ったな、覚えたぞ。覚えたからな!

純真な少年は、大人の世界には嘘があふれていることを学んでいくのでした。 【完】

エピローグ#1

この話には続きがあって、どうにも同じソフトを買ったX1ユーザーと話がかみ合わない。向こうは絶賛しているが、こちらは何一つ同意できる要素がない。…もしや

はい、X1テープ版の『アメリカントラック』を見た瞬間、すべてが打ち砕かれました。
PCGの威力かスクロールが爆速。しかもフルカラー。
リアルタイムキースキャンで操作も快適。なによりトラックが操作不能にほとんどならない。

動画はYouTubeより。こちらはX1のディスク版でオープニングがありますね。

 

…これ、同じゲーム?
なんでFM-7で発売したのよ。

(今ならプログラマの方は結構なスキルをお持ちで、ハードの特性に苦慮しながら開発されたことは理解できます。それでもFM-77用にして頂きたかった)

そして新たに、筆者の周りでは「『アメリカントラック』ヒエラルキー」というピラミッド構造のカーストが確立しました。

友A「X1『ゼビウス』では最終的に辛酸をなめたが、『アメリカントラック』では俺が圧勝だな」
友B「クックック、PC-6001mkIIやMSXにも劣るとは…」
俺「…くっ、くそぅ、今に見てろよッ」

 

エピローグ#2

俺「おい! なんか『FINAL ZONE』っていうすごいゲームが出るみたいだぞ! 残念だがFM-7では出ないっぽいから、とりあえずX1版をお前買えよ! 映画的なシナリオで、フォーメーションが組める戦場の狼みたいな感じだぞコレ。ゲーセン以上の重ね合わせ処理だってよ! 買うしか!!」

…歴史は繰り返す

 (物凄く険悪な関係になりました。まさか弾が前にしか撃てないとは思わなんだ

夢中で愛読していたベーマガで、ここまで絶賛されているのだから。自分が持つ機種で発売されていなくとも、純粋な善意により対応機種を持つ友人に買わせるものである。その結果の人間関係は、当然すべて自己責任なのだ。

 

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