とんがりギャルゲー紀行 第109回:東京封鎖~キミが隣にいた昨日~

 さて、本日もとんがったゲームを紹介していきますよ。今回取り上げるのは、タイトルだけはタイムリー過ぎるような気がするこちら。

東京封鎖~キミが隣にいた昨日~

 2006年にC-cideから発売された美少女ゲームです。突如として東京が独立宣言をかまし、完全封鎖してしまうお話です。先に言っておくと封鎖の原因はウィルスではありません。

 主人公は千葉県住まいの学生ですが、数年前に東京へ越した幼なじみとお付き合いしています。数駅程度の距離に住んでいるのに突然二度と会えなくなるなんて納得できるはずもなく、封鎖から2年後、謎の美女の助けを借りて東京へ潜入する――といった展開が待っています。がんばれ千葉県民。

 純愛ストーリーではありますが、彼女との間に愛情はあっても関係は円満ではなく、封鎖前には色々とやらかしていました。

 いくつか例を挙げると、

  • 海浜公園に行きたいという彼女のささやかな主張をスルーしておいて「ちゃんと言えばよかったのに」と文句を言う(彼女が作った弁当を出すに出せなくてダメにした)
  • 彼女と微妙な空気になってもとりあえずヤれば仲直りできるという思考の元で行動
  • 待ち合わせ時間の変更連絡を自分からしていたのに、それを忘れて最初の約束の時間に来なかった彼女を怒る
  • 悪いと思っていても素直になれない性格だから謝らない

 一応言っておくと、彼女も自己主張をはっきりしなかったり、主人公の罪悪感を悟ってか何でもなあなあで流してしまうので問題はお互いにあります。主に主人公が悪いけど。

 そんな2人が東京封鎖で引き裂かれてしまうわけですね。よりによって主に主人公のせいでギクシャクして彼女を泣かせた翌日に。東京都は通信も通じなくなるため「明日謝ればいいや」と先送りにした、その明日がいつまでもやって来ません。

 ちなみに東京封鎖の開始まではプロローグ的な扱いで、本編はそれから2年後がメイン。東京が封鎖された日にちょうど遊びに来ていた彼女の妹は主人公の居候として学園生活を送り、東京で働く父と生き別れになった悪友は進学をせず自衛官となっていますが、主人公だけが彼女を何度も夢に見て後悔し続け、前に進めていない様子が描かれます。

 そんな折、東京への連絡手段を思いがけず入手し、東京解放を目指すレジスタンスや美人ジャーナリストとも知り合ったことで東京侵入を目指す流れになるわけですね。

 これで東京封鎖の原因が病気の蔓延とかだったら余計なことしないでじっとしてろって話なんですが、本作における封鎖の理由は不明です。主人公が知らないだけで他視点では知らされるなんてこともなく、プレイヤーにさえ東京が封鎖された理由は明かされないまま本編が終わります。一応、東京に突如出現した謎の柱を隠ぺいするためではないかと登場人物たちは予想していますが、柱は軌道エレベータだとか、地球外の技術で建てられたとか、あくまで予想をするだけ。真実を明らかにすることに熱心だったジャーナリストのヒロインですら、報道で「高度に軍事的で政治的な建造物と思われます」とコメントするにとどまっています。なんだかふわふわしてますよね。

東京潜入中に見た謎の柱

 ディテール甘めなのは真相についてだけでなく、やけにすんなり東京への地下道が見つかったり、通信相手である都民が大変協力的だったり、新人自衛官が仲間に疑われた様子もなく巡回の穴を見つけてきたりという展開も気になるところ。プレイ中の筆者は「罠か?」「罠?」「通信はどうせ傍受されているんでしょう?」「東京の協力者はどうせ裏切るんでしょう?」と疑心暗鬼にとらわれていましたが、そんなことはまったくありませんでした。どのルートでも東京への潜入に成功しますし、偶然の失敗からピンチになっても全員無事で済みます。下手したら殺されかねない殺伐世界観のはずなのに、驚きのあっさり風味。

 世界観を主とするゲームだと思っていたのでこれには肩透かしを食らった気分でしたが、なんのことはない、本作はあくまで主人公の成長(と恋愛)に主軸を置いた物語ということなのでしょう。だからそれ以外の要素に描写を割いていないのではないかなと個人的には予想しています。彼女との思い出を夢に見たり、過去の描写はしっかりしていますからね。

 つまり一言でまとめると、

物々しいメモリーズオフ

 メインヒロインである彼女のルートでも言及されていましたが、東京が封鎖されなければそのうち別れていたかもしれない2人が、離ればなれになったことでそれまでのことを省みて相手を大切にできるようになるというお話なんですね。ちなみに復縁しないルートでも東京での再会時にそれまでのことを謝罪しあって区切りをつけ、円満にお別れしています。修羅場もありません

 やらかしたのは主人公だけでは? と思われるかもしれませんが、通信で2年ぶりに主人公と話した際に「私のことは忘れて」と一方的に告げる場面がありまして、彼女はその発言をひどく後悔したそうなのです。謝罪はそのことについてですね。

彼女との通信を楽しみにする3人

 恋愛ものとして見れば、本作はストーリーにおいて描きたいことのはっきりしたゲームです。物々しい世界観にわくわくして手に取っても期待に応えてはくれませんが、そのことを理解した上でなら楽しめるゲームだと思いますよ。ダウンロード版もあるので、自宅でやることがない人は気軽に遊んでみてもよいのではないでしょうか。「自宅待機で暇だから東京封鎖してる」などと発言すれば紛らわしさにオイコラと言われかねないご時世なので、ひそやかにプレイするといいでしょう。パッケージ版でもいいでしょうが、windows10では起動しないかもしれないのでご注意ください。筆者の環境では起動しませんでしたが、体験版の実行ファイル(拡張子が.exeのやつ)を製品版のゲームフォルダに上書きしたら何故か解決して無事に東京封鎖されました。

 さて、それではこの辺で。また次回もよろしくお願いします。

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