『X68000パーフェクトカタログ』本日無事に校了しました。前回、『MSXパーフェクトカタログ』の時に書いた「ほかに作りたい本がある」というのはまさに本書のことでして、MSXが売れたおかげでめでたく作ることができました。ちなみに『MSXパーフェクトカタログ』は版元の話によると最近のパーフェクトカタログシリーズの中では群を抜いて消化率が良いらしく、これも次の本へのモチベーションに大きく寄与しました。
X68000は当時「持っていた人」と「持っていなかった人」との間でかなりイメージの異なるパソコンでして、大多数一般論として「アーケードゲームの移植に強いマシン」という認識を持たれている方が多いと思います。もちろんこれ自体は間違いないですし、『グラディウス』をはじめ『源平討魔伝』や『ドラゴンスピリット』など好移植のタイトルを挙げようとすればそれこそ枚挙に暇がありません。私も、当時片っ端からゲームソフトを買い漁って遊び倒していた日々を今でも思い出します。
では、「持っていた人」が持つ、異なるイメージとは何だったのかと言うと「創作意欲をそそられるマシン」なんですね。X68000はよく「究極のホビーパソコン」と称されることがありますが、それはゲームがたくさんあるというだけではなく、昔のホビーパソコンが持ち合わせていた「パソコンを使って絵も音楽もゲームも作れる」伝統をしっかり受け継いでいたことにあるんです。しかも、子供だましのオモチャみたいな機能ではなくプロユースに使えるレベルで。
当時の家庭用ゲーム機の水準はおろか、アーケードゲームレベルに比肩しうる表現力を持っていることは当時発売された移植タイトルを見れば一目瞭然ですが、開発環境はすべて開かれているので「ユーザーの力量次第で同じものが作れる」これがなによりユーザーの創作意欲をくすぐりました。これはゲーム開発に限らずグラフィックや音楽においても同じことが言えます。
実際、私も含めて周りのX68000ユーザーは創作活動に没頭し、その経験が講じてプロになっていった人間が大勢いました。ハチロクがドライバーを育てるクルマであるかのように、X68000はクリエイターを育てるパソコンだったのです。
……と、ここまで熱く語ってきたものの、実は今回の『X68000パーフェクトカタログ』ではそういった創作にまつわるエピソードは殆ど触れていません。
それはなぜかと言うと、冒頭で触れた『持っていた人」と「持っていなかった人」の温度差の問題なんですね。当時のユーザー目線で本を作ることはもちろん可能だったのですが、持っていなかった層には伝わりにくい。言葉は悪いですが「熱っぽく語れば語るほどドン引きされちゃう」んです。そこで、まず入門に位置する本として従来のパーフェクトカタログで踏襲した、ハードとソフトを押さえた本を作ることからスタートしようと考えたわけです。
もちろんこういった作り方だと私自身もすべてを出しきれない不完全燃焼感はありましたが、本当に美味しいところは後回しということで、まずは「こんなパソコンだった」というところを大多数のオールドゲーム、パソコンファンに知っていただきたいというスタンスで本書を作りました。実際、X68000を包括的にまとめた本というのは専門書以外になかったわけで、それなりに概略を掴むには手頃な本になったと自負しています。
ここから先の「美味しいところ」を本にまとめられるかは本書の売り上げ次第というところではありますが、私としてはぜひやりたいテーマですので本書ともども是非応援していただきたいと思います。
MSXの「美味しいところ」の本も作りたいなぁ……。